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読書の記録がメイン。後は、つぶやき的な記録。
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インターネットっていろいろなものがあるんだけど、最近驚いたのは小説が流出しているっていうこと。

東野圭吾が直木賞を受賞した「容疑者Xの献身」の電子データ化したものがあるんだよね。ちゃんと読んでないけど、最初から最後まであるぽっぽい。

「流出」って書いたけど、それがほんとに流出したのかはわからない。
もしかして、どこかのマニアが本を1ページ1ページスキャンしてそれを電子データ化したのかもしれないし、1ページづつキーボードから入力したのかもしれない。
もし、本当にそんな作業を地道にやっているとしたら、色んな意味で頭が下がるよ。
もっと違うことに自分の能力を使えばいいのに・・・なんて思っちゃいけないんだろう。

青空文庫というのは前からある。著作権の保護期間の切れた名作を後世に残そうという運動で、みんなが力を出し合って名作を電子化するっていうもの。

自分の知らないところで、この青空文庫のアンダーグラウンドバージョンがあるのかも。

続きに冒頭部分を抜粋してみる。


容疑者Xの献身

    1

 午前七時三十五分、石神はいつものようにアパートを出た。三月に入ったとはいえ、まだ風はかなり冷たい。マフラーに顎《あご》を埋めるようにして歩きだした。通りに出る前に、ちらりと自転車置き場に目を向けた。そこには数台並んでいたが、彼が気にかけている緑色の自転車はなかった。
 南に二十メートルほど歩いたところで、太い道路に出た。新大橋通りだ。左に、つまり東へ進めば江戸川区に向かい、西へ行けば日本橋に出る。日本橋の手前には隅田川があり、それを渡るのが新大橋だ。
 石神の職場へ行くには、このまま真っ直ぐ南下するのが最短だ。数百メートル行けば、清澄庭園という公園に突き当たる。その手前にある私立高校が彼の職場だった。つまり彼は教師だった。数学を教えている。
 石神は目の前の信号が赤になるのを見て、右に曲がった。新大橋に向かって歩いた。向かい風が彼のコートをはためかせた。彼は両手をポケットに突っ込み、身体をやや前屈みにして足を送りだした。
 厚い雲が空を覆《おお》っていた。その色を反射させ、隅田川も濁った色に見えた。小さな船が上流に向かって進んでいく。それを眺めながら石神は新大橋を渡った。
 橋を渡ると、彼は袂《たもと》にある階段を下りていった。橋の下をくぐり、隅田川に沿って歩き始めた。川の両側には遊歩道が作られている。もっとも、家族連れやカップルが散歩を楽しむのは、この先の清洲橋あたりからで、新大橋の近くには休日でもあまり人が近寄らない。その理由はこの場所に来てみればすぐにわかる。青いビニールシートに覆われたホームレスたちの住まいが、ずらりと並んでいるからだ。すぐ上を高速道路が通っているので、風雨から逃れるためにもこの場所はちょうどいいのかもしれない。その証拠に、川の反対側には青い小屋など一つもない。もちろん、彼等なりに集団を形成しておいたほうが何かと都合がいい、という事情もあるのだろう。
 青い小屋の前を石神は淡々と歩き続けた。それらの大きさはせいぜい人間の背丈ほどで、中には腰ぐらいの高さしかないものもあった。小屋というより箱と呼んだほうがふさわしい。しかし中で寝るだけなら、それで十分なのかもしれない。小屋や箱の近くには、申し合わせたように洗濯ハンガーが吊されており、ここが生活空間であることを物語っていた。
 堤防の端に作られた手すりにもたれ、歯を磨いている男がいた。石神がよく見かける男だった。年齢は六十歳以上、白髪混じりの髪を後ろで縛っている。働く気は、もうないのだろう。肉体労働をするつもりなら、こんな時間にうろうろしていない。そうした仕事の斡旋《あっせん》が行われるのは早朝だ。また、職安に行く予定もないのだろう。仕事を紹介されても、あの伸び放題の髪のままでは、面接に行くことすらできない。無論、あの年齢では、仕事を紹介される可能性もかぎりなくゼロに近いだろうが。
 塒《ねぐら》のそばで大量の空き缶を潰《つぶ》している男がいた。そうした光景はこれまでにも何度か見ているので、石神はひそかに『缶男』という渾名《あだな》をつけていた。『缶男』は五十歳前後に見えた。身の回り品は一通り揃っているし、自転車まで持っている。おそらく、缶を集める際には機動性を発揮するに違いない。集団の一番端、しかも少し奥まった場所というのは、この中では特等席に思われる。だから『缶男』はこの一団の中では古株だろうと石神は睨《にら》んでいた。
 青いビニールシートの住居の列が途切れてから少し行ったところで、一人の男がベンチに座っていた。元々はベージュ色だったと思われるコートは、薄汚れて灰色に近い。コートの下にはジャケットを着ているし、その下はワイシャツだ。ネクタイはたぷんコートのポケットに入っているのだろうと石神は推理した。石神は彼のことを『技師』と心の中で名付けていた。先日、工業系の雑誌を読んでいるのを見たからだ。髪は短く保たれているし、髭も剃られている。だから『技師』はまだ再就職の道を諦《あきら》めてはいないのだ。今日もこれから職安に出向くつもりなのかもしれない。しかしおそらく仕事は見つからないだろう。彼が仕事を見つけるには、まずプライドを捨てねばならない。石神が『技師』の姿を初めて見たのは十日ほど前だ。『技師』はまだここの生活に馴染んでいない。青いビニールシートの生活とは一線を画したいと思っている。そのくせ、ホームレスとして生きていくにはどうすればいいかわからず、こんなところにいる。
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